自由は死んだ、万雷の拍手の中で。
「自由は死んだ。万雷の拍手の中で」
共和国元老院の最高議長パルパティーンが「銀河全体の安全と秩序を保証するため」と称し、共和国を解体・再編、最初の銀河帝国を樹立し、みずから皇帝になる旨を宣言する場面で、ナブー出身の元老院議員(であると同時に、すでにダークサイドに堕ちたアナキン・スカイウォーカー=ダース・ベイダーの妻であり、間もなく生まれるルークとレイアの母親であるところの)パドメ・アミダラが、元老院の議席で呆然としながら、つぶやくのが上記の台詞である。
かくして、共和制から帝政への移行、共和国の議長が帝国の皇帝へと就任する件は、議場を埋め尽くす熱狂のうちに、あっさりと承認された。
ヒットラーの例をもちだすまでもなく、独裁はかような「民主的手続き」を経て完成されることが、ままある。
……と、以上は、ことわるまでもなく映画『スターウォーズ/エピソード3 シスの復讐』の話ではあるが、しかしこれが映画の世界だけの出来事なら、どんなにかいいだろうと思う。
明日の衆議院総選挙をへてこの国の体制は、いまや最悪の局面をむかえつつある。
かつての砂川闘争(一九五五~五六)の闘士・森田実氏の孤軍奮闘もむなしく、自民党の地すべり的勝利が決定しつつある。じつに暗澹たる思いがする。
この国の人間は、あきれるほど度しがたい。怒るよりも先に笑ってしまいたくなる。
ひと言でいって、馬鹿。馬鹿という言葉が乱暴ならば、頭が悪い。頭が悪いがいいすぎだとしたら、自分でものを考えなさすぎる。右といえば右、白といえば白、自己責任と言えば自己責任と言いだし、それが意味することを真剣にとらえかえすこともなく、付和雷同、烏合無象、長いものに巻かれっぱなしで、しかもそのこと自体、まるで無自覚、無頓着、無邪気といえばきこえはいいが、ようするに馬鹿。馬鹿という言葉が乱暴ならば、頭が悪い……
これが「民度が低い」ということか。知的レベルが低いといわれれば、残念ながらそのとおりだとうなづかざるをえない。
もっともこの「知的レベルの悲劇的な低さ」については、敵が長年かかって用意周到、準備万端ととのえてきたものであって、ただ従順に労働力を提供し、労働で得られた涙金をこんどは嬉々として消費にまわすという、極端にいってしまえばこの一連のサイクルこなすためだけの存在として、この国に生を受けたものが教育されてきた成果であるともいえる。
それに対して有効な反撃を組織できず、むざむざとこういう状況を放置させておいた左派勢力の責任またも大きい。
おもえば二・一ゼネストの全面的敗北よりこの方、戦後日本左翼の歴史は敗北の歴史であった。
新講和条約から六〇年安保、三井三池、沖縄返還、スト権奪還、国鉄分割民営化と、負け戦をあげればきりがないが、そんな中にあって数すくない例外のひとつが一九七八年三月二六日の三里塚、いわゆる開港阻止決戦において「空港包囲、突入、占拠」の大方針の下、天の時、地の利、人の和をもって、管制塔を完全破壊した「日本階級史上に残る勝利」くらいなものだろう(この勝利がどれほど支配階級を震撼させたかについては、当事者のひとりであった柘植洋三さんのサイトに詳しい)。
「反・自虐史観派」が主張するように、戦後民主主義がまちがっていたのではなく、戦後民主主義が不徹底、未完成だったことが問題だったのだと思う。
「永久革命としての民主主義」
政治学者の丸山眞男がかつて述べたように、民主主義はただそこにあるものではなく、不断の努力によって、闘いとらなければならないものだ。
きっとぼくたちや、ぼくたちの先達は、それを怠ってきたのだろう。
国鉄分割民営化のさい、総評・富塚三夫に代表されるような貴族化した組合官僚が現場労働者たちのたたかいを見殺しにし、自分たちの既得権をまもるために国鉄労働者たちを資本に売りわたしたなどは言語道断だとしても、しかしこの程度の人物を「労働運動の指導者」として、やりたい放題にやらせていた左翼勢力にもつよく反省をもとめなければならない。
それにつけてもこの国の民衆の、なんと御しやすいことよ。
「改革、改革」とやたら改革ぶるのはいいが、なんのための改革ははっきりいわない詐欺師同然の政治家にまんまとだまされ、なるほど改革は改革だが、それはこの国の支配階級と、かれらの盟主たるアメリカ合衆国のための改革であって、有権者の大多数には利益をもたらさないばかりか、ますます生活は圧迫され、生命の危険さえ招こうというのに、あえて自分で自分の首を絞めるような選択をしようというんだから。
「遠い昔、はるか銀河系の彼方で」
は、邪悪な独裁者を滅ぼすのに二十有余年の歳月がかかった。
予言どおり、アナキン・スカイウォーカーはシスの暗黒卿を倒し、フォースのバランスをもたらしたものの、しかし予言が成就するまでには、みずからの肉体の大部分ばかりか、そもそもそれがシスに堕ちてまで力を欲する理由だった妻までも失い、さらには銀河全体では幾多の血が流され、あまたの命が犠牲にされた。
自由民主党総裁も、内閣総理大臣も、終身皇帝でこそないから、あの阿呆面がこの先一生、最高権力者の座に居座りつづけることはありえないが、それでも「総選挙に勝利した」事実を錦の御旗にかかげ、国民から白紙委任されたとばかり、より強大な権力を手にすることはまちがいない。
そうしてその権力のもと、広告代理店とマスコミに扇動された熱狂のなかで、すべては邪悪な勢力の醜悪な意志のとおりに事態は進行し、この国に生活する人民を奴隷化する体制はより完成に近づくだろう。人民は、奴隷としての自分に気がつき、しまった、だまされたと思いいたればよし、──だが多くのひとは現在すでにそうであるように、自分が奴隷の境遇であることにすら気づかず、逆に奴隷だと指摘するひとたちを攻撃するだろう。また、すでにその萌芽が散見されるように、不平、不満のはけ口を正当な矛先である国家権力、資本主義政府に向けられることなく、権力の意のままに、より弱い立場のものを迫害し、また中国や韓国など、他民族、周辺諸国への差別を助長し、無用な対立を惹起するだろう。
郵政が民営化され、莫大な額の郵貯、簡保が市場に開放されることで、アメリカ資本に資金提供する目途はついた。
つぎはアメリカ合衆国軍隊の下請けとして、アメリカの世界支配のために日本人の生命を提供する番だ。強大な権力を手中におさめたうえは、憲法九条を改悪し、自衛隊を国軍化、たとえ兵役の義務を課さずとも、より貧しいものは軍隊に行く以外に生存の機会がないような社会に作りかえれば、戦闘員の供給にはこと欠かない。
こうして日本の民衆は、その精神と肉体をアメリカ合衆国とその配下である日本の支配層にやすやすと明けわたし、壊れやすい部品から構成されたロボットとして全存在を搾取され、享受すべき人生を享受しないまま、その一生を終えることになる。
それでも、フォースにはバランスがもたらされる。老獪かつ狡猾な銀河皇帝=ダース・シディアスでさえ、帰還したジェダイによってシャフトの底に投げこまれる。腐敗した権力が長くつづいたためしはない。おごれる平家は久しからず。官軍は、いつまでも官軍のままではいられない。ルーマニアのチャウシェスクは、得意満面で演説しているさなか、群衆の中から突如としてわきおこった罵声の前に、顔色をなくし、やがては君臨してきた権力のみならず、最後には自分の生命までもなくした。そのきっかけは、群衆の中のたったひとりが「人殺し!」と叫んだことだった。
洗脳は、それが洗脳だと気がついたときその効力が消える。たとえぼくたちが斃れても、未来の世代がこの圧政の泥沼から起ちあがるときが来る。いつの日か、鉄鎖を断ち切るときが訪れる。しかしそれはまだ、ずっと先のことだ。その間にぼくたちは、いったいなにを失うのだろう。


Comments
はじめまして
何も考えていない国民が、あとになってから文句を言うのです。
私もいろいろ書いていますので、よければどうぞいらしてください。
Posted by: U2QMS | 2005.09.11 at 10:41 PM
U2QMSさん
コメントありがとうございます。
正直いって、がっかりですわ、有権者の選択には。
まあもともと、期待はしていませんでしたが。
あとになって文句をいうなら、まだいいと思います。
ぼくが危惧するのは、文句もいわず、唯々諾々と、政府の言いなりになるのではないかということです。
Posted by: 風太郎 | 2005.09.11 at 10:52 PM
お返事ありがとうございます
2年後に消費税が上がる話をきいて、そのときに「反対です」っていうんですよ、絶対に。
自分が自民党に投票したのを棚に上げてね。
でも、文句を「言うだけ」です。結局は従う。
そしてまた自民党に投票する。
馬鹿なんです、やっぱり。
しかたありませんね。この世の中で強いのはやはり「馬鹿」なんです。だって殴られてもいたくないんだもの、馬鹿だから。
Posted by: U2QMS | 2005.09.11 at 10:58 PM
>でも、文句を「言うだけ」です。結局は従う。
ですね~。
ほんと、自分がいま、どれだけ痛めつけられているか、わかってないというのは、救いがたい。
Posted by: 風太郎 | 2005.09.11 at 11:03 PM
はじめまして。こんにちは。名文ですね。
「スターウォーズ」の場合は「運命」によって暗黒卿が倒されるのはあらかじめわかっていたからいいものを。現在を生きる私たちは、運命を知らず、ただあるのは歴史の教訓と、現代への批判精神と、未来への理想のみです。
私も最近「荒らしさん」と付き合っていますが、戦術的には勝てるのですが、戦略的には負けている気がして暗澹たる気分に陥っています。
Posted by: くま | 2005.09.12 at 05:29 PM
くまさん
コメントありがとうございます。
「エピソード3」を観たのは二カ月も前になりますが、映画の感想をいつか書いておこうと思いつつ、先延ばしに延ばしていたのが、結局こんなかたちで、現実の政治と絡めて書くことになろうとは、予想だにしませんでした。
しかしまあ、フォースじゃありませんが、世の中、最終的にはバランスがとれるというか、落ちつくところに落ちつくというか、なるようになる気はします。
ただ、それまでにいったい、どれほどの犠牲をはらわなければならないのか、その点がかなり気がかりではあります。
Posted by: 風太郎 | 2005.09.12 at 10:59 PM